霊長類には多様な分類があるが、いずれも遺伝子を残すために競争するという点では一致している。
はっきりと目立つ鼻を持つテングザルから大きな睾丸を持つチンパンジーまで、霊長類ならば決まってできる限り交尾のチャンスをものにして、遺伝子を拡散させようとする。
新たに発表された研究レポートによれば、彼らはこのような同じ目標を持ちながらも、それぞれ違う特徴を進化させたそうだ。
このプロセスの奇妙な帰結として、見目麗しいハンサムなサルほど、睾丸が小さくなったという。
■ 外見の良いさと睾丸のトレードオフ
霊長類のオスの派手さには意味がある。
たとえば、オランウータンなら額縁のような頬が特に大きい個体、あるいはアカゲザルなら特に顔が赤い個体は、そうでないものよりも多くの交尾相手に恵まれるだろう。
その正反対の位置付けにあるのが、地味な見た目のボノボやチンパンジーだ。
彼らには派手さがないかわりに、睾丸が大きいという特徴がある。
進化生物学者のステファン・ルーポルト氏(スイス、チューリッヒ大学)は、こうしたミスマッチを調査。
霊長類103種を含むデータを分析したところ、「派手さと睾丸のトレードオフ」が明らかになった。
つまり、たてがみ、ひげ、色鮮やかな皮膚といった飾りが発達した霊長類は睾丸が小さく、その反対に睾丸が大きな霊長類は地味な傾向にあるのである。
■ 外見の魅力にコストをかけると、睾丸は小さくなる
1匹のオスがメスを独占してしまう霊長類の社会では、オス同士がメスを巡って争い合わねばならない。
データから浮かび上がったのは、オス同士の競争が熾烈な霊長類社会ほど、外見の性的な魅力を強調するような特徴が目立っているということだ。
しかし、そのためのコストは高くつく。
ゆえにオスたちは生殖機能に対してそれほど投資できなくなってしまう。
そのために睾丸は小さくなる。
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ある種では、社会的に有力なオスがメスを独占するでしょう。
どのようなものでも、オスを有力な地位につかせられる特徴は、強い自然選択にさらされます。
きちんと相手を得ることができたオスしか遺伝子を残せないからです。(ルーポルト氏)
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かくして、優位にあるオスであることを示す「地位の証」を作り出す遺伝子は、受け継がれ、後世に拡散される。
■ 限られた進化のリソースをどこに投資するべきか
オスたちが大きな睾丸に投資をするのか、それとも立派なヒゲや鼻に投資をするのかは、彼らが生きる社会に左右される。
たとえば、1匹のオスがメスを独占したりせず、複数のオスが同じメスと交尾をするような社会体制もある。
この場合、競争を繰り広げることになるのはオスの精子同士だ。
すると、進化のリソースを「地位の証」よりも睾丸に投じたほうが後世に遺伝子を伝えやすくなる。
チンパンジーの睾丸は、脳の3分の1もの重さがある。
そして彼らの社会は、複数のオスと複数のメスが交尾をするという体制だ。
そのため、自分の遺伝子を残すためには、できるだけ多くの精子を作れたほうが有利である。
その結果が大きな睾丸だ。
しかし、そうなると自分を飾り立てるための進化リソースは不足してしまい、見た目は地味になる。
カラパイア 2019年04月14日
http://karapaia.com/archives/52273187.html