取材班が、男の元妻が住んでいるというマンションに足を運ぶと衝撃的な話を聞くことができた。近隣の女性住民はこう証言する。
「元々近所付き合いがない方々でしたが、やはり10年くらい前に起きた“あの事件”が気まずいんとちゃいますかね。事件の数年前になるんかな、父親以外の3人で15年ほど前に越してきました」
この近隣住民によると、女性と息子2人の一家だったようだ。父親である男が同居していたかは不明。近隣住民は姿を見たことはなかったという。
「私の息子が見たんですけど、ある日、朝方に警察の方がたくさんいたことがあったそうなんです。しかもあの部屋の玄関が空いていて、中を見ると血溜まりができてたって。親子トラブルで、お父さんが息子さんを刺したそうなんです」(近隣女性)
別の近隣住民の男性も「血まみれの部屋から男性が救急車へ運ばれてた」と約10年前の事件の状況を振り返る。
「刺されたのは2人の息子さんのうち、お兄さんの方。どうやらお兄さんが働くか働かないかで揉めたのが原因やったと聞きました」
当時の報道によると、男は長男の頭部などを包丁で刺したとして、殺人未遂容疑で逮捕。別居していたとみられる男が、妻と息子の住む部屋へ来て食事、飲酒し、酔った勢いでかばんに入れていた包丁で刺したという。
何が男をそんな凶行に駆り立てたのだろうか。当時の裁判を知る関係者にも取材することもできた。
「2008年秋頃に男は離婚し、ひとり暮らしを始めています。しかしひとり暮らしの寂しさが募り、翌年に元妻へ復縁を申し込むも失敗。孤独感が深まり、次第に自殺を考えるようになったそうです。しかし1人で死ぬのは怖かった。そこで、“働かず元妻に迷惑をかけている”という理由で長男を道連れにしようという考えに至ったようでした」
その後、男の心情は移り変わり、「家族は一緒でなければならない」という理由から、元妻や次男も道連れにすべきだと考えるようにもなった。そこで男は2011年4月、ついに実行に移す。
「長男から家族みんなで遊びに行こうと誘われ、家族が一堂に会すことがあったんです。男は日中、家族と一緒に過ごし、その後に『寿司を買ってるから』という理由で元妻の家に上がり込みました。その際、包丁を数本、鞄に忍ばせていますが、まだ無理心中に対してはためらいがあったようです。
しかしその後に長男と2人で酒を飲み交わした。どんな話をしていたかはわかりませんが、酒の勢いも手伝ってか、明け方6時頃に長男に切りかかったのです」(同前)
男は持ってきていた刃渡り15㎝ほどの出刃包丁を長男に向け、何度も頭周辺を刺した。長男は血だらけになりながらも男を玄関に押し出し、なんとか最悪の事態は免れることができたのだという。
「こうした経緯から、裁判では男の弁護側が、孤独によるうつ病といった精神疾患などを原因に減刑を求めています。しかし当時、男は仕事を辞めたにも関わらず、金を競馬に費やして自身の生活費にも困るような状態でした。裁判官は自身の行いが招いたことを打開するために、家族を犠牲にするのは『家族に対する甘え』と切り捨てて、懲役5年を言い渡しています」(同前)