男「ごちそうさまでした」
女店員「あ、そういうのいいんで」
男「?」
女店員「お客さんいつも『いただきます』『ごちそうさま』っていいますけど」
女店員「別にこっちはそんなガチで牛丼作ってるわけじゃないんで」
女店員「そんな礼儀正しくされてもかえってうっとうしいっていうか」
男「……」
女店員「いっ……! な、なにすんだ!」
男「勘違いするな」
女店員「えっ……」
男「別に俺は君だけにごちそうさまをいってるわけじゃない」
女店員「じゃあ誰に……」
男「今俺が食べた肉は君の肉か?」
女店員「んなもん牛の肉に決まってるっしょ……」
男「そう、牛の肉だ。それと、米を作ったのは君か?」
女店員「いや……農家の人……」
男「牛丼の器を作ったのは君か?」
女店員「んなわけ……」
女店員「……」
男「俺はそういう諸々に対して、ごちそうさまっていってるんだ。分かったか」
女店員「サ、サーセン……」
男「いや、俺こそ大人げなかった。お会計頼むよ」
女店員「はい……」
女店員「……」ドキドキ
女店員(なんなのこの胸の高鳴り。怒りじゃなく、もっと別の感情――)
彼女欲しいから使わせてもらう
ガラッ
女店員「あ……!」
男「牛丼の並をお願いします」
女店員「は、はいっ!」
女店員(よかった、来てくれた……)
……
女店員「どぞ……」
男「いただきます」
お前さてはモテだろ
男「ごちそうさまでした」
女店員「あざっす……」
女店員(うう……あの人が食ってるとこ見てるだけでドキドキした)
女店員(ごちそうさまされたらもっとドキドキした)
女店員(なんだよこれ。なんなんだよ、これ~!)
男「ごちそうさまでした」
女店員「あざっす」
女店員(それにしても、ホントにいつもちゃんと『いただきます』『ごちそうさま』するよな)
女店員(綺麗に食べてくれるから片付けやすいし……)
女店員(なんつーか、あの所作に美しさみたいなもんを感じてきた……)
女店員「どぞ」
DQN「……」グッチャグッチャクチャクチャ
DQN「もしもしぃ? 俺? 今牛丼屋でメシ食ってる!」
DQN「……」ポチポチ
女店員(食い方汚えわ、食いながら電話するわ、スマホいじるわ……どうしようもないな)
女店員(昔のあたしならスルーできてたのに……)
女店員「あのお客さん」
DQN「?」
女店員「別にごちそうさまとかはいらないけど、もうちょっと綺麗に食ってもいいんじゃないすか?」
DQN「あ? なんだてめえ」
女店員「!」
DQN「俺の食い方にケチつけんのか!? あぁん!?」ガシッ
女店員(や、やべっ……!)
DQN「おい、もう一度いってみろよ!」
女店員「うう……」
女店員「あ……」
DQN「なんだてめえは?」
男「今来た客だ。その手をはなせ」
DQN「やんのかコラ」ジロッ
男「お前のパンチを……いただきます」
DQN「ナメてんのかコラァ!!!」
バキィッ!
女店員「ああっ!」
男「ごちそうさまでした」ミシ…
DQN「……!」ゾクッ
DQN「なんだこいつ……気持ちわりっ!」タタタッ
女店員「だ、大丈夫っすか!」
男「うん」ヒリヒリ
女店員「あ、あざっす……あたしのために……」
男「気にしないで。それと、牛丼並ね」
女店員「は、はいっ!」
店長「おーい」
女店員「……」
店長「もしもーし」
女店員「あ、サーセン」
店長「君……いつも来るあのお客さんに惚れてるだろ?」
女店員「な、なにを!」
店長「だから……ほら」
女店員「遊園地のチケット……」
店長「ダメ元で誘ってみたら? 案外成功するかもよ?」
女店員「あ、あざっす!」
男「……」モグモグ
男「ごちそうさまでした」
女店員「あ、あのー……」
男「なにか?」
女店員「えぇと、その……」
男「?」
男「これは遊園地の……」
女店員「どっかで暇があったら……一緒に行かないっすか!」
男「……」
女店員「……」ドキドキ
男「いいよ」
女店員「……えっ!」
男「このチケット……いただきます」
女店員「……あ、あざーっす!」
男「おはよう」
女店員「ど、どもっ!」
女店員「……どうすかね、この格好」
男「……」
男「可愛いよ」
女店員「あざっす!」
男「うーん、めったに遊園地なんか来ないからな」
女店員「じゃ、コースターにしましょう。コースター!」
男「コースター? コップの下に敷くやつ?」
女店員「なにボケかましてんすか。ジェットに決まってんでしょジェット」
男「え」
男「あの、俺そういうのはちょっと――」
女店員「さ、行きましょ!」
女店員「もうすぐ頂上っすね」
男「う、うん」
ピタッ
女店員「お、止まった」
男「……」
ゴォォォォォォォッ!!!
女店員「ヒャッホォォォォ!」
男「い、いただきまぁぁぁぁぁす!!!」
男「ご、ごちそうさまでした……」フラフラ
女店員「サーセン、もしかして絶叫系苦手でした?」
男「いや、そんなことはないけど……」フラフラ
女店員「苦手みたいっすね」
女店員「とりあえず、あっちで休みましょうか」
男「そうさせて……もらおうかな」フラフラ
男「ありがとう、いただきます」グビッ
女店員「こんな時にもいただきますするなんて、偉いっすね」
男「習慣になっちゃってるからね」
女店員「そういや、どうしていつも『いただきます』『ごちそうさま』をするんすか?」
男「……俺の両親は田舎で定食屋をやっててね」
女店員「へえ、そうだったんすか」
男「俺は後を継がず、都会でサラリーマンやってるわけだけど」
男「どんな大人になってもいいが、いただきますごちそうさまは忘れずしろって……」
女店員「そうだったんすか」
男「だからあの時は、自分の両親もバカにされたような気分になって、あんな反論してしまった」
男「申し訳なかった」
女店員「いや、あたしこそ! あんなのあたしのが悪いんですから! サーセン!」
男「うん」
女店員「こういうとこで食べるメシはうまいっすね!」モグモグ
男「うん。だけどいつも食べてる君の牛丼もおいしいよ」モグモグ
女店員「あ、あざっす……」
男「どうしたの? 顔真っ赤だよ? 熱でもある?」
女店員「!」ギクッ
女店員「い、いやっ! あたし、ケチャップ食べると顔赤くなる体質で……!」
男「変わった体質だね……」
女店員「こういうのんびりした乗り物もいいもんっすね」
男「うん、俺にはこういうやつのほうがちょうどいいかな」
女店員「そういえば、牛丼もゆっくり食べますもんね」
男「早食いはよくないって教わってきたからね」
女店員「いつも綺麗に食べてくれて片付けやすくて助かってます。あざっす」
男「なにもお礼いわれることじゃ……当たり前のことじゃないか」
女店員「その当たり前をやってくれてることが嬉しんです」
男「そういってもらえると、俺も嬉しいよ」
女店員「あたしもっす」
女店員「それで……今夜なんすけど……」
女店員「あたしともっと……一緒にいてくんないっすか。ご飯を食べて、その後も……」
男「……」
男「悪いがそれはできない」
女店員「!」
男「いや、そうじゃない。今日は本当に楽しかったし、もっと一緒にいたいと思ってる」
男「だけど俺と君はまだちゃんと知り合ってまもないし」
男「夜を一緒に過ごすとかそういうのはもっとお互いをよく知ってから……と思って」
女店員「分かったっす」
男「ごめん、情けない男で……」
女店員「いや、いいっすよ。そっちのが男さんらしくてステキっす」
男「ありがとう」
女店員「それじゃまた、牛丼屋で!」
男「ああ!」
…………
……
飛沫が飛んでハッキリ言って迷惑だから何も喋るな
食材の命なんかどうでもいい、まわりの客の命が失われるんだよ
あ、そういうのいいんで
女店員「結構いいデートできたっすよ。チケットありがとうございました」
店長「ってことはもう……?」
女店員「いや、そこまでは」
店長「ええっ、なんで!?」
女店員「いいんすよ。あたしらはマイペースで」
店長「そういうもんかね」
男「やぁ」
女店員「いらっしゃいませー!」
男「牛丼並お願いします」
女店員「はーい!」
男「ごちそうさまでした」
女店員「あざーっす!」
女店員(これでいい。あたしらは丁寧にゆっくりと進むんだ)
客A「牛丼つゆだくね」
客B「豚丼」
女店員「はーい!」
男「……」ザッ
女店員「あ、いらっしゃいませ」
男「やぁ」
女店員「今日はやけにビシッと決まってるっすね。どうしたんすか?」
女店員「え」
男「会社で大きな仕事を成功させてね。ようやく自分に自信がついた」
男「だから……今夜この後俺に付き合ってもらえないか?」
女店員「は、はいっ!」
店長「おおっ!」
客A「ヒューヒューッ!」
客B「ついにか!」
パチパチパチパチパチ…
男「は、拍手……!?」
女店員「常連さんはみんな、あたしらのことは知ってるっすから……」
女店員「あ、そういうのいいんで!」ポッ…
― END ―
面白かったよ
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